B:渇きの煉獄蝶 イツパパロツル
レイクランドに駐屯する衛兵団の重要な任務のひとつだ。
だが、そんな衛兵たちが手を焼いている存在がいる。動物の生き血を啜るおぞましき存在……ロンカ文明の伝承にちなみ「イツパパロツル」と名付けられた。ある時など、前哨基地が襲われ、かなりの数の衛兵が犠牲になったのだとか……。
もしも討伐しようというなら、十分に気をつけることだ。
~ナッツ・クランの手配書より
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ショートショートエオルゼア冒険譚
喉が渇く、無性に喉が渇く。
私は寝床賭してる巨木の天辺から羽を羽ばたかせて空に舞い上がった。太陽が真上に見えるこの時間ならおそらく湖の傍に得物がいるはずだ。私は上空から地面を見下ろし、辺りを付けた湖の方へと飛んだ。
私が瀕死のピクシーの血を啜ったことで妖精王から「妖精郷からの追放の呪い」を受けたのはもう30年ほど前の事だ。妖精郷においてピクシーに手を出すことは禁忌中の禁忌であるので呪いを受けたことは恨んでいない。だが、元々こうなる事が運命として決まっていて、そのための巡り合わせで今があると思っている。回りくどい言い方をしたが、あれは不慮の事故のように私は思っている。
あの時期は万年花が咲き乱れる妖精郷にあって、最悪の時期だった。元々は血ではなく樹木の樹液を啜る種だった私はその日も樹液が溢れ出ている樹木を探して妖精郷を飛び回っていた。しかし、どうしたことかあの年はいつもは樹液を出す樹木がなかなか樹液を出さない年だった。過去の事は知らないが、周期的にそういう年もあるのかもしれない。だが、私にとっては初めての経験だった。巨大な体を維持するにはかなりの量の樹液が必要だったがどの樹木も樹液が殆どなく私は明らかに飢えていた。やがて羽を動かすこともつらい程、体力も低下し、私は湖の水を啜ってなんとか生き延びている状態だった。
そんなある日、遠くで何やら揉め事が起こっているような音が聞こえた。普段の私なら「君子危うきに近寄らず」で無視するところだったが、極限の飢えで判断力が鈍っていたのだろう。私は様子を見にフラフラと近寄って行った。そこでは一人のピクシーが数匹の羽蜥蜴に襲われていた。おそらく、ピクシーが得意のいたずらを仕掛けたまでは良かったが、蜥蜴たちの逆鱗にでも触れてしまったのだろう。私は少し離れた岩の上から様子を見ていた。どのくらいの時間だったか。かなり執拗に痛めつけられていたように思う。蜥蜴が満足して去った後には最早虫の息のピクシーが倒れていた。私は何の気なしにピクシーに近づいた。日頃からピクシーのいたずらには私もこりごりしていたこともあり、冷やかし半分だったがそのピクシーは思った以上に酷い有様だった。ピクシー自慢の透明な美しい羽根はほとんど残っておらず、腕や足も一部が欠損して大量に血を流していた。
「これはもう助からないな」
私は直感的にそう思った。妖精王に知らせるべきだ、私はそう思いその場を離れようとしたが何故か体が動かない。それどころか血を流すピクシーから目を離すことも出来なかった。何故だ?私は困惑した、そして気付いた。極限状態まで飢えた私は殆ど無意識にピクシーが流す血を欲していた。啜りたいと感じてしまっていたのだ。
私は身体が強烈に要求するその行為に抗えなかった。ほんの少し、少しだけ…。だが、一口口にすると自分では止める事が出来なかった。私は夢中になってピクシーの血を啜り続け、気が付いた時には既に息のないピクシーの血液を啜る私を無数のピクシーが取り囲んでいた。
捕えられた私に激怒した妖精王は二つの呪いを掛けた。永遠に妖精郷に立ち入ることができない呪いと人型生物の血液でしか癒せない尽きる事のない猛烈な渇き。
住み慣れた妖精郷を追われた私は激しい渇きを感じながら行く当てもなく方々を彷徨った。ゆく先々で人型生物を見つけては襲い、その血を啜った。時には人型生物が集まる集落を襲った。だがいくら血を啜って体を潤しても、すぐにまた渇きに襲われる。私は癒えることのない渇きに苦しみ続けている。
私は思いふけりながら飛んでいたが、地上に動く影を見つけ我に返った。
「人だ!」
途端にまたあの激しい渇きが強さを増す。私は急降下すると、地面スレスレを掻っ攫うように飛び、二股の鉤爪になった前足で引っ掻けようとした。
「捕えた!」
私がそう思った瞬間、前足に僅かな衝撃を覚えた。続いて焼けるような痛み。私の前足は鉤爪の上あたりから切断されていた。後ろを振り返ると剣を持った人の雌の姿が見えた。その人型の雌の脇にもう一匹いる。尻尾の付いたそいつは何かを言いながら細長い棒を振った。
私は慌てて羽ばたいてスピードと高度を上げ逃げようとしたが遅かった。
突然私の体は炎に包まれた。薄い羽根は驚くほどあっという間に炎に巻かれ焼け落ちた。私は夢中で羽ばたいたが羽のない体は重力に引かれスピードをあげながら真逆さまに落ちていく。
どうやら私は不味い奴らに襲い掛かってしまったらしい